「秋」


「だいぶん涼しくなったよ〜、ねぇ?」

診療所に来た羽衣ちゃんは開口一番そう云った。

「ハイハイ、風邪ですか」

聴診器を取り上げる。

前に座った彼女はじっとこっちを見て

嬉しそうに笑いながら。

「ちゅーしてくれたら治る〜v」

がっしょん。




このところずっとそうだ。

小さい頃から成長を見守ってきた俺としては

ちょっと手が出しにくい。

・・・なんてこと、本人は理解しているのか?!

「なにようっ羽衣の事嫌いなのー?!」

「あ〜嫌いじゃないない」

正直、迷う。




「嵐ー」

「あ、兄貴」

交替。そう云って兄は羽衣ちゃんの頭を撫で、

よりにもよって、

「家寄って行きなよ」

「え〜良いの信先生!やったあ!」

兄貴ィ。恨めしそうに見上げた先には、ニヒルな笑いを浮かべた兄。




お茶を淹れて、リヴィングに運ぶ。

夏の名残の風鈴が、風に揺れて、この寒いのに

涼しげな音を立てる。

「羽衣ちゃん砂糖は?」

「いらなーい。ダイエッタなの!」

「そんなアンタそれ以上細くなってどうすんの」

「え〜先生太いのがスキ?」

・・・・・・。

気を取り直して聞く。

「羽衣ちゃんアナタ4●キロでしょう」

「・・・なんで知ってんの」

「・・・カルテ作ってんの俺だって知ってます?」




しばし二人でお茶を飲む。

切り出したのは羽衣ちゃんだった。

「ねー先生」

「なに?」

「あたしねぇ、告られたのー」

「あ、・・・そうなんだ」

沈黙。気まずくなって羽衣ちゃんの方を見たら、

彼女は大きな瞳に涙を一杯溜めてこっちを見ていた。

「・・・と」

たじろぐ。

「それだけ?先生、何とも無いの?」

胸が、痛い。何も云えなくて、黙ってしまう。

「ずっと好きってゆってるのに!」

その言葉に揺らいでいる自らを、己が一番判っているから。

「先生何にもゆってくれないの?!」

何か云えたらとっくに云ってる。

羽衣ちゃんに告白した奴に醜くも嫉妬か?

「大人だから我慢とか?!」

最低だようぅ、と呟いてから、

彼女は大粒の涙を、ついに落とした。





何かが、飛んだかもしれない。

タガが外れて。

ごめんと謝りながら、

抱きしめる両腕に力を込めた。


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