序章

そこそこいい学校の一角に、本を選んでいる女の子がいた。
「えーっと・・・これは・・・。」
・・・声が低い。失礼。男の子だ。
しかし女の子と間違えても無理は無い。
何しろ、その子は真っ黒な髪を腹辺りまで届かせているのだから。

彼の名前は“キリエ=トス=エテアロッド”、12歳。瞳は黒、髪は先ほど述べたように黒、
着ているものも大半が黒、肌はしろ、の全体的にモノクロだ。カラーなのは薄い唇と爪が
淡い桃色である事くらいか。

「・・・ん?」
本を選ぶ指が止まった。
「なんだこれ。」
一冊の本を抜き取る。
「題名が無い・・・。」
ちらっと腕時計を見る。5時30分。

そう、その本には題名が無かった。背表紙にも、表表紙にも、裏表紙にも。
「作者名も付いてないし、出版社名も・・・古すぎてすりきれてんのか?」
いやしかし、それはすりきれたというより“元々無かった”というような滑らかさだった。

中を見てみよう――――と思った瞬間、

“6時10分です。6時10分です。本を借りたい人は、図書カウンターへお並び下さい”

アナウンスを聞いたとたん、キリエは驚いて本をかばんの中に滑り込ませた。

なぜそうしたか分からない。分からないが、キリエは気が付くと図書カウンターを見ないようにしながら家に向かって一目散に走っていた。
自分でも仰天し、すぐに引き返してきちんと本を借りる手続きをしなければ、と思ったが、足は言うことを聞かない。走りっぱなしだ。
走る必要はまったく無いのに、死に物狂いで走っている。足が痛い。肺が痛い――――こけそうになってたたらを踏んだ。
かばんに挿していたボールペンが落ちる音を聞いたが、顔は振り向こうとさえしない。
道行く人が驚いて道をゆずる。あの角を曲がれば家だ。家に着けば足も止まるだろう。ほら、もう門だ。

『バタンッ!!』

何でだ?!何で足が止まらないんだ!!足は階段を駆け上がってキリエの部屋に飛び込んだ。

『バンッ!』
部屋が震えるほど大きな音を立ててドアが閉まった。

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